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アニメ『ユーリ!!! on ICE』雑感 その2

第7滑走が本当にすごく好きで、思わずまた感想をまとめたくなってしまった。

現時点で放送されているのは第8滑走まで。第8滑走のJJのテンションもすんごい好きなんだけど、第7滑走が私はいちばん好き。

 

ヴィクトルが推しでポポさんの応援サポーターでピチットくんのファンだなあ、というのが第7滑走を見ての実感だった。

FS前、プレッシャーに押しつぶされそうになる勇利に、あえて突き放すようなことを言うヴィクトル。この場面に感じたのは、ヴィクトルの選手として圧倒的な強さを支えてきただろう切り替えの早さと実行力だった。ヴィクトルは執着をしない。進化の可能性があれば、今手にしているものも捨てて新しい選択肢を実行する。それがヴィクトルという人なんだろうと私は思う。

勇利という他者に、自分の行動原理をぶつけるということ。ヴィクトルが取った行動は、勇利の不安な感情に寄り添うものではない。けれどだからこそ、結果的には勇利の気持ちが切り替わることに繋がっていった。*1

勇利のペースに合わせるばかりが勇利のためになるわけではない。なぜなら、同じところでグルグルしてるばかりでは何も変わらないからだ。そしてどんな不調の時ですら、挑んだ以上勝負の瞬間は訪れる。悠長に不安に押しつぶされてはいられない。自分を信じて力を発揮していかなければ、決して勝利は訪れない。

そしてこの第7滑走のなかでヴィクトルと対比されているのが、同じロシア出身の選手であるポポーヴィッチ(以下ポポさん)だ。

突き放すような発言を受けて涙が溢れ出す勇利に、困惑したヴィクトルは「泣かれるのは苦手なんだ。こんな時どうしたらいいかわからない。キスでもすればいいのかな?」と言う。

ヴィクトルはきっとこれまでも相手を泣かせる側で、その上去る者を追わないタイプなんだろう。この台詞は、ヴィクトルの他人への執着の薄さを感じさせる。

そんな他人への執着の薄いヴィクトルと対置されているのがポポさんだ。ポポさんは別れた恋人であるアーニャへの執着を、作品に昇華させることで今期の舞台に挑んでいる。実際、ヴィクトルとポポさんの二人をコーチしてきたヤコフは、ポポさんのプログラムについて「ヴィクトルに無いものを求め形にしてきたプログラム」であると独白する。

他人に執着をせず、コーチの言うことを聞かないヴィクトル。対して、他人に執着し、誰よりもコーチの言うことを聞いてきたポポさん。

ポポさんのパートは、どこかおかしみをもって描かれてもいる。本人はアーニャへの思い入れ、さらにはアーニャとの復縁の願いを込めて作品を作り上げた。けれどポポさんにとっては切実で美しいその感傷も、画面に表れてくるイメージとしては拭いがたくおかしみを伴っている。さらに、「これからは私の時代だ」と結ぶ自信に満ちた表情ですら、続く勇利の見せ場への前振りとしてどこか喜劇的に回収されていってしまう。

公式HPのプロフィールにある通り、ポポさんは「自分の芸術的感性に絶対的な自信を持っている」キャラクターでもある。ポポさんは、自分の内面に入り込むことで成果を上げられるタイプなのだろう。それは見る人によってはおかしみを見出されてしまうのかもしれない。けれど、自分の内面に入り込み、自分の感性に自信を持つことでしか追及できない表現というものは存在する。少なくともポポさんの今期の演技は、自分の感情に入り込むことでしか完成できなかっただろうと思う。そのようにしてポポさんは選手として氷上に立ち、結果を残した。そのこと自体は間違いなく賞賛されるべき事実だ。

そしてそんなポポさんの描写を受けて続くのが、勇利のFSだ。

演技のさなか、泣いたことで却って気持ちの安定した勇利は「僕が急に泣き出したときのヴィクトルの顔、おもしろかったなあ」と述懐する。

自分の感情に入り込むことで力を発揮したのがポポさんだとしたら、試合前のプレッシャーに押しつぶされそうになっている勇利はその真逆と言っていいだろう。勇利にとって必要だったのは、自分の感情から距離を取ることだ。自分とヴィクトルの置かれた状況を客観視し、おかしみを見出すということ。それはプレッシャーに押しつぶされそうになっている自分から距離を取ることに繋がる。

当事者にとってはどんなに切実であっても、引いて見ればおかしみを見出だされてしまうことはどうしたってあって、それはときに残酷でもあるけれど救いでもある。ポポさんのエピソードにおいてはある種の残酷さとして描かれていたおかしみは、勇利のエピソードにおいては救いとしても機能している。*2

 

あとクリスの「俺の好きなスケートを滑れるのは俺だけだ」って独白とピチットくんの「タイ人の僕がグランプリシリーズで四回転を決めるだなんてつい最近まで誰も想像してなかったんだよ。僕はずっと信じてたけどね!」って独白がすごく好きだった(特にピチットくんのまっすぐな自信の言葉には心が救われる思い)。

その流れを汲む勇利の「もっと強くなりたい、もっと強くなれる、僕はヴィクトルの想像を超えられる」の言葉も本当に好き。

想像を超えること、驚きをもたらすこと、それこそが感動を呼ぶし、そうした瞬間をつくりだすことこそが表現者の喜びなのかもしれないと思う。そして氷上という不自由な場所でいかに自由を体現するか、表現するか、という部分がフィギュアスケートの競技としての美しさなのかもしれないとも。

それにその氷上という不自由な場所は、きっと自分という不自由な場所とも重なるんだと思う。作中、登場人物である選手たちはいかに自分を更新していくか、その上で自分を信じて力を発揮していくか、ということに向き合っている。『ユーリ!!! on Ice』という作品は、自分という不自由な場所をいかに超えていくか、という物語でもあるのかもしれない。

 

最後になったけど、勇利の滑走、放送が後半に行くに従って意図的にどんどん作画レベルを上げていく演出になってるのかもしれないなあ。これまでは確信があんまり持てなかったんだけど、第6滑走のSPの最後の横顔を見てひょっとするかも、と思った。

『ユーリ!!! on ICE』、お話も演出も本当にすごいしめちゃくちゃ面白い。今週の放送回もすんごく楽しみ!

*1:ただしこれはあくまで結果的にであって、ヴィクトルのしたことがとてもリスキーであることに変わりはない。

*2:それに構成的なところだと、ヴィクトルの「キスでもすればいいのかな?」→「勇利以上に驚かす方法はこれしか思いつかないよ」という一連の流れと、キスが物語の鍵となる眠り姫をテーマにしたポポさんのプログラムは対置されてるんだろうなあ。ほんとに構成がうますぎて脱帽すぎる…。